第3章 騎士と犯罪者
優しく揺れている。
気持ち良い微睡みの中、私は目を開けた。
「…ん?」
私は一瞬訳が分からなくなったものの、見えた大きな背中と優しい土と太陽の匂いに自分がグレンさんに背負って貰っている事を理解した。
「起きたか?」
気付いたグレンさんが私を背負い直した。
「私寝てしまったんですね。すいません」
私が謝ると、グレンさんは肩を竦めた。
「いや、俺の方こそ、すまない…その、体は大丈夫か?」
太腿の傷には布が巻かれている感じがする。何処か気まずそうにしているグレンさんに、先程のことを気にしている様子が窺えた。
「はい、大丈夫です。あの、助けてくれて有難うございました」
迷ったけれど、私は思い切りグレンさんに抱き着いた。
「っ…」
一度緊張に体を揺らしたグレンさんだったけれど、耳がみるみる赤く染って行くのが後ろからでも見て取れた。
「グレンさんのお陰で助かりました。本当に…有難うございました」
「いや、その、君が無事で…良かった」
やっぱり私はグレンさんが好きだ。
彼が犯罪者であるはずが無い。でももし何か悪い事をしたのであれば、それはきっと何か理由があったからに違い無い。
だから私は、何があってもグレンさんを信じよう。
彼の味方でいようと心に決めたのだった。
宿に帰ると、心配した女将さんと謝るリリアンが迎えてくれた。オリオンさんの事はグレンさんが上手く話してくれたらしく、この宿にはもう泊まれないようにしたと女将さんがリリアンには内緒で教えてくれた。
「あ…」
今日はもう休むようにと言ってくれた皆に甘えて部屋に戻ろうとした所をグレンさんが何か言いたそうに私の傍へとやって来た。
足を止めた私の前で、布の袋を漁り出したグレンさん。
「これを」
バラバラと土が落ちる。グレンさんの手には、株ごと採られた小さな白い釣鐘の形をした花があった。
「宝石では無いのだが…」
ふと、オリオンさんが私にくれようとした首飾りの事を思い出した。それとは違う、小さくて素朴な花。リンと澄んだ音を響かせた珍しい花に私は笑みを浮かべた。何よりグレンさんからのプレゼントなのが嬉しかった。
「嬉しいです。宝石より何より…グレンさんがくれたものだから」
私は花を受け取ると、その花に頬を寄せて愛しく頬擦りをして見せた。そして、大事に育てようと決めたのだった。