第3章 掴んだ手がかり
「これ、誰かわかりますか?」
「そこまではわからないよ。その娘さんがどこから来たのかも知らないしね」
だが今のところはこれで十分だった。
「ありがとうございました」
老婆に礼を言ってその場を去り、トド松警部と共に戻ることにした。
覆面パトカーのラジオで怪盗ミューズが取り返したダイヤと絵画が、それぞれ元の持ち主に返されたことを報じるのが聞こえる。
考えてみれば怪盗ミューズは本当に盗まれた物を取り返し、ちゃんと持ち主に返している。盗んだ相手はいずれも裏取引など、悪いことをしている奴らだ。
警察署に戻ると、部下が走ってきた。
「カラ松警部!またしても怪盗ミューズの予告状が来たとの通報がありました!」
「今度はどこだ?!」
「○×町の東郷氏宅です!」
「…東郷…!」
東郷の名前はよく知っている。以前強盗をして逮捕され、出所した男だ。怪盗ミューズが予告状を出したということはつまり、また何かしら盗んだということだ。
「よし、向かうぞ。東郷を逮捕する手はずも整えておけ」
「はっ!」
東郷の家につくと、すでに数人の警官が来ていた。
「お疲れ様です!」
バタバタと足音を立てて走ってくる東郷。
「お前がカラ松警部か?!」
「はい」
「見ろ、これを!」
[今夜12時私から全てを奪ったお前の生涯を頂きに参上する 怪盗ミューズ]
「え…っ…。生涯?」
「これは明らかに殺害予告だ。俺はイヤミのようにメイドは雇わんし、ブラックのように屋敷の中にいることもせん。俺の生涯ということは命を奪うということだ。それなら俺は車の中にいる。そしてお前らはその車を警護しろ」
そう言いながら食料と飲料を持って車に乗り込んだ。窓も閉め、ドアにロックをかける。
「確かにこれでは東郷に近づくことも出来ない。だが気になることもある。普通に殺害予告なら命と書くはずだ。それを生涯と書いた。もしかしたらイヤミやブラックの時のように、何かしら悪事の証拠を持っている可能性は高いな。となると狙っているのは命ではなく、社会的に生きられなくする、つまりは刑務所送りにするということか」
「ですが今までとは違う書き方ですよね?」
「そうなんだ。それが気になる。この、全てを奪ったってどういうことだろう?」
「さあ…」
ミューズの全てを奪った東郷は今、車の中でのうのうとしている。
