第20章 事件
杏は狭く、暗いところで息を潜めていた。
『はぁ、はぁ、はぁ……、』
動かない身体を腕で擦る。
杏(どうしてこうなったの…。)
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いつも通り、本当にいつも通りだった。
昼間に自身の稽古の準備を裏山で行い、夜の警備に備えて少し早めの湯浴みと夕餉のために屋敷に戻った。
『ただいま戻りました。』
カラカラ、と戸を開けて小鳥遊がいる屋敷へと入る。
しかし屋敷はシーン、と静まり返っていた。
いつもならば、「音白様、おかえりなさいませ。」と言って出迎えてくれる小鳥遊がいないのだ。
首を傾げながら台所へ向かうと、いつも通り隠の隊服を着た小鳥遊が台所に立っていた。
杏(あれ、小鳥遊さんいる…??)
『小鳥遊さん、ただいま戻りました。』
聞こえなかったのかもしれないともう一度声をかける。
「コクン、」
『…先に湯浴みしてきますね。』
頷くだけで返事を返してくれない小鳥遊を不審に思いつつもお風呂に向かう。
杏(…どうしてこちらを向いてくれないのかしら??)
湯船に浸かりながら考えるもわからない。