第17章 刀鍛冶の里-強襲
時透にとって杏は大好きな姉のような存在だった。
時透はあらゆることを忘れてしまうが、杏に関することを忘れることは少なかった。
自分に記憶がないとわかり、不安に押しつぶされそうだったとき、目の前に現れた可憐な少女。
寝ていて目覚めてすぐに見たため、春の妖精かと思った。
杏の笑顔を見た瞬間、その部屋に春の風が吹いたように感じた。
それからずっと杏を見てきた。
だからこそ、不死川が杏に好意を抱いているのも、杏が不死川に好意を抱いているのもずっと前から知っていた。
しかし、大好きな姉が特定の人に盗られるのが嫌だったから、不死川にはよく喧嘩を売っていた。
自分のことをよく理解してくれて、優しく微笑んでくれ、時には厳しく叱ってくれる。
そんな、大好きな杏が失われるかもしれない。
その恐怖が時透の心の中を埋め尽くす。
時(杏さん…助けに行かなきゃ…。でもここから出られない。どうしたら…。)
頭の中が混乱してうまく考えが纏らない時透の瞳にヨタヨタとふらつきながらもこちらへと歩いてくる小鉄の姿が映る。
時(何してるんだ…。君じゃだめなんだ。どうしてわからない。傷口を押さえろ。早く逃げろ!!僕のところに来るな!!助けようとするな!!君にできることはない!!)