第39章 上弦ノ月陰る時
黒(まだだ…まだ、再生出来るはず……。)
けれど、体の崩壊は止まらない。
黒(まだ、負けではない…。私は…まだ……。)
刀を落とし、血鬼術も出せず、崩壊を止めることも出来ない体で懸命にもがく黒死牟。
そんな彼の脳裏に、今度は老いた縁壱が現れた。
縁「お労しや、兄上。」
自身の変わり果てた姿に涙を流す縁壱。
その姿に、黒死牟は今の今まで目を背け続けてきた自身の醜態にやっと目を向けた。
黒(頸を落とされ、体を刻まれ、潰され。負けを認めぬ醜さ。
“生き恥”
こんな事の為に、私は何百年も生きてきたのか?負けたくなかったのか?醜い化け物になっても…。強くなりたかったのか?人を喰らっても…。死にたくなかったのか?こんな惨めな生き物に成り下がってまで…。)
ふわりとよみがえる、認めたくなくてひた隠しにしていた感情。
黒(違う…私は、私はただ…。縁壱、お前になりたかったのだ…。)
──サラサラ
頸を斬られ、体も殆ど崩れ、最後に残った心臓がサラサラと風に舞っていく。
黒(消し炭になるまで…ああ…何も、何も手に入れることが出来なかった…。)
その思いと共に心臓の欠片もサラサラと消え、そこに残っていたのとてもとても古い1つの笛だった。
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