第1章 稀血の子
「もう大丈夫だぞ!」
凛と通った声が頭上から聞こえた。
その声のおかげで私は、自身の体を包み込むようにしっかりと回されたものが、人の腕だという事に気付くことができたのだった。
地面に着地したその人は、私の足にくっついていた鬼の手首を引き剥がして遠くに放り投げると、燃え盛る炎のような柄の入った羽織の袖を引き裂いて私の足を止血してくれた。
「あの鬼は俺達が退治するっ!だから安心するんだ!」
その人は力強く頷きながらそう言った。
その精悍な顔が、炎を閉じ込めたような紅い瞳が、私の全身を支配していた恐怖をまるで手のひらに舞い落ちた雪のように一瞬で溶かしてくれた。
ふーっ、と全身の力が抜けていき、閉じていく瞼の隙間から、鬼に立ちふさがるようにして立つ二つの大きな背中が見えた。
灼熱の炎のような羽織をはためかせた人と、大きく「殺」の文字の入った羽織を着た人……。
そこで私の意識は、ふつりと途切れた。