第22章 番外編 其の参
咲の葬儀の合間、桜寿郎ら子ども達は庭に出て、いつまでも乾いてくれない涙を風に晒していた。
「本当にお強く…、優しい母上だった」
そう言って鼻をすすり上げたのは長男の桜寿郎だ。
「まだ父上の四十九日も過ぎていないから、きっとお二人で共に天国へ旅立たれたのだろう。本当に仲睦まじいお二人だった…。そんな二人の子どもに産まれて、俺は幸せだった」
続けられたその言葉に、靑寿郎も言う。
「兄上、それは我らも同じですよ」
その隣では、火凛が赤くなった目元を拭いながら頷いている。
その時ふと、風の流れが変わった。
さぁっと頬を撫でる風の中に混じって流れてくる、甘く爽やかな藤の花の香り。
庭の向こうで、すだれのように揺れている紫色の花弁の房。
それは咲の、よく嗅ぎ慣れた母の香りだった。
(終)