第21章 番外編 其の弐
その小さな体を抱きしめて咲が言う。
「桜寿郎、あなたは母を守れなかったと言いますが、私はあなたにしっかりと守ってもらったと思っていますよ。あの時私は、手足を失ったこの体で何が出来るのだろうかと、不安と恐怖に身がすくみ動けないでいたのです」
そう言って咲は、切断された左腕を少し動かしてみせる。
「ですが、桜寿郎が勇ましく向かっていったあの姿、あの声が、母に勇気を与えてくれました。だから動けた。桜寿郎が母を守ろうとしてくれたように、母もまた桜寿郎の事を守りたかったのです」
「母上…」
咲の顔を見上げている桜寿郎の赤い瞳が、ゆらりと揺れる。
「桜寿郎、今日は本当にありがとうございました。あなたのように強く優しい子の母になれて私は幸せです」
そう言って咲は、ぎゅうっと桜寿郎の体を包み込むように抱きしめた。
柔らかな温もりと、藤の花の甘い香りに包まれて、桜寿郎の瞳から涙がこぼれ落ちる。
「母上…!」
ぎゅう、と咲の浴衣を握り締めて、桜寿郎もまた咲のことを抱きしめ返した。
そんな二人の会話を隣の布団で聞いていた杏寿郎は、咲の言葉に在りし日の母の言葉を思い出して、思わず涙が出そうになっていた。
「むぅ!やはり俺も一緒に寝るぞ!!」
そう言うやいなや杏寿郎はガバッと飛び起きると、咲の布団に自分の布団をぴったりと寄せた。
それから自分の掛け布団が咲にも掛かるように引っ張ってきて、後ろから包み込むようにして二人の体を抱きしめた。
「おやすみ!!」
そう言って即眠りにつく杏寿郎。
「母上、おやすみなさい!」
と言って桜寿郎も眠りにつく。
その寝つきの良さは杏寿郎譲りで、そっくりの顔をして寝息を立て始める二人を見比べて咲は少し可笑しくなる。
それから、枕元に敷いた小さな布団でスウスウと可愛らしい寝息を立てている火凛の寝顔を見上げる。
「おやすみなさい、杏寿郎さん、桜寿郎、火凛」
杏寿郎と桜寿郎に挟まれて、前後からしっかりと抱きしめられながら、咲はにっこり微笑んで眠りについたのだった。