第21章 番外編 其の弐
これは咲がまだ三番目の子を身ごもる前、第二子の火凛がまだ1歳にもならない頃のお話。
待望の二人目の孫、しかもそれが女の子だったことにより、桜寿郎との触れ合いの日々の中ですでに限界値に達しようとしていた槇寿郎の可愛さメーターはついに爆発した。
今までは辛うじて保ってきた厳格な姿はその爆風により見る影もなく崩れ去り、槇寿郎は日夜、まだ首も座らぬ火凛の小さな体を抱き上げてはデレッデレに顔を緩ませるようになっていたのだった。
その表情は杏寿郎と千寿郎を唖然とさせるのには充分で、そんな父の表情を見ては、二人とも「もはや別人になられたようだ…」と驚くのだった。
だが咲は、桜寿郎が生まれた時から実は槇寿郎が誰も見ていないところでは時折こういう表情をしていることを知っていたので、それほど驚くこともなく、そんな家族達の姿を微笑ましく見つめているのだった。
咲は割と、家族の細々とした面を知っている。
それというのも、もともと細やかなところに気が付く性格をしている上に、槇寿郎についてはずっと自宅で共に過ごしているため、実の息子である杏寿郎や千寿郎よりも知っていることは多い。
槇寿郎は誰にも気づかれていないと思っているのだが、実は咲は、ふとした時にそういう些細なことに気づいているのだった。
だがそれを不躾に指摘するような娘ではないため、ただ自分の内にだけ大切な宝物のようにしまって、ほっこりと胸を温かくしているのだった。