第16章 つりあい
「えっ」
炭治郎の問いかけに、俯いていた咲の顔がガバッと上げられて見る見る内にカアーッと赤く染まっていくのを見て、
(ん!?)
と、炭治郎の頭の中でピンとある予感が立つ。
(これはまさか…)
ついに、だろうか、と炭治郎は内心拳を握った。
以前、杏寿郎も含めた三人で活動写真を見に行った際、杏寿郎が咲に対して特別な感情を抱いていることに炭治郎はすぐさま気がついた。
だが肝心の咲が、杏寿郎のその想いにあまり気づいていないようだったのだ。
それが非常にもどかしくて、杏寿郎が不憫で、何とか力になれないだろうかと思っていたのだ。
だが今咲からは、あの時にはしなかった甘酸っぱくて瑞々しい香りが漂ってくるではないか。
杏寿郎が咲に対して発しているものと同じ匂い。
兄妹愛や家族愛といったものとは決定的に違う、恋情の匂いだ。
つまりこれは、咲が杏寿郎に恋愛的な意味で好意を抱いているということではないか。
そう思ったら炭治郎の胸は大きく弾んで、つい嬉しさからまじまじと咲を見つめてしまった。
そんな炭治郎に咲はごくんと喉を鳴らしてから、おずおずと話し始める。
「あ、あの…実は杏寿郎さんから……、仇の鬼を倒したら、妻になってくれないかと言われたのです」
「えっ!!」
予想していた以上の急展開に、炭治郎は思わず浮き足立つような衝撃を受ける。
「そっ、そうかぁ!そうかぁ!!煉獄さん、ついに言ったんだな!!どうなることかと思って、実は俺もずっと気になってたんだよ~!!」
まるで妹の嫁入りが決まったかのような炭治郎の喜びように、咲は驚いて目を丸くした。
言葉が上手く出てこないかのようにハクハクと口が動いている。
「つ、ついに、って、それはどういう……」
「え?いや、煉獄さんが咲のことを好きなんだってことは知ってたからね!多分気づいていたのは俺だけじゃないはずだよ!」
「……!!」
炭治郎のその言葉に、ついに咲はもともと赤かった顔を、今にも卒倒してしまうのではないかと心配になるほど真っ赤に染めて黙り込んでしまった。