第16章 つりあい
「愛している!!妹のように、ではない。一人の女性としてだ!!」
「えっ」
「俺は君のことを、女性として好いている!!」
間髪入れずに杏寿郎が続けた言葉に、咲の目はまん丸に見開かれた。
「何としても共に仇の鬼を打ち倒そう!!そして、仇討ちが無事に成就した暁には、どうか俺の妻になってもらえないだろうか!!」
部屋の窓ガラスをビリビリと震わせるような勇ましい声が、咲の鼓膜をも揺らす。
何を言われているのかすぐには理解できなかった咲であったが、少しすると、まるで体温計の目盛りが上がるように、顎から額にかけてカーッと顔が赤く染まっていった。
「えっ?あっ、うっ」
あまりのことに言葉が出てこなくなって、咲はただしゃっくりのような音を喉の奥から出した。
「返事は今でなくていい!!」
スクッ、と杏寿郎がベッドの横で立ち上がる。
そしてそのまま、真っ赤になって硬直している咲の体を抱きしめた。
「……だから、どうか死んでくれるなよ、咲…。俺は君のことが大切で、どうしようもないんだ」
今までの雷鳴のような大声とは打って変わって耳元で囁くように言われたその言葉は、耳の奥から腹の底までをズクリと震わせるような甘く切ない響きをまとっていた。
パッ、と咲から体を離した杏寿郎は、羽織を翻してそのまま病室から出て行ってしまった。
残った咲は、ベッドの上でただ、時が止まってしまったかのようにいつまでも固まっていたのだった。