第14章 冨岡さん、一体どういうことですか?
食後、夜通しの任務の疲れを癒すために、各々が畳に寝転がったり縁側に腰掛けたりして休憩した。
咲は庭に立ち、徐々に昇ってくる朝日を眺めていた。
「夜が明ける」
その傍らへ、てちてちと義勇が歩いてきた。
誰も指摘しないが、義勇が歩く時には何故かこんなふうに幼児の足音のような音が鳴るのだ。
あと数歩で咲の隣に並ぶ、というその時だった。
庭に植えられた生垣の影から突如、綿毛の塊のような白い子犬が転がり出てきた。
子犬は飛び出してきた勢いのまま、キャンキャンッと元気よく吠え立てる。
それを見るやいなやビクーンッと義勇の体が飛び上がり、目にも止まらぬ速さで咲の背中に張り付いてきた。
「わぁっ!ぎ、義勇さん、どうしました!?」
しゃがみ込み、後ろからぎゅうううと抱きついてくる義勇。
突然現れた子犬にも驚いたが、義勇の行動にも驚きを隠せない咲が声をあげる。
それに対して義勇は、咲の腰に顔を押し付けながら、くぐもったような声を上げたのだった。
「お、俺は、犬が苦手だ」
その声は震えていて、腹に回された腕からもブルブルと振動が伝わってきた。
子犬は相変わらず二人の周りを跳ね回って吠えていたが、どうもその姿を見る限りでは、威嚇しているのではなく遊んで欲しくて仕方がないという様子であった。
腹に回された腕にぎゅうっ、とさらに力が込められて、少し…いや結構苦しい。
相当怖いのだろう。
(こんなに可愛い子犬なのに…)
と、咲は少し可笑しくなる。
だが義勇からしたら、まさに恐怖の真っ只中に突き落とされたようなものなのだろう。
子犬の方は、そんな義勇にはおかまい無しで、喜びが抑えきれないといった様子で、可愛らしい薄紅色の舌をハッハッと見せながら、義勇の足元で跳ね回り続けていた。
避けようとすればするほど、寄ってこられるタチらしい。