第13章 小刀と拳銃
咲にも無一郎にも特に任務命令は下っていなかったので、炭治郎の刀が打ち終わるまでの間、里で過ごしていくことにした。
ちなみに無一郎の刀はあの後すぐに戻ってきている。
そして、この空いた時間を使って無一郎が柱稽古を付けてくれることになったのだった。
咲はさっそく、鉄珍様に打ってもらった小刀を振るってみた。
それは咲の腕の長さにぴったりと合っていて、振ると微かに空を切る音がしてとても心地よかった。
咲の軽やかな体さばきに、無一郎と炭治郎が感心したように目を見開く。
「咲の師範って誰だっけ?」
と、無一郎が聞く。
「炎柱様です。私、何年間かは煉獄家でお世話になっていたんです」
「あぁ、そうだったんだ。どうりで基礎がしっかりしてる訳だ。煉獄さんが稽古をつけたんだったら、その動きにも納得だね」
無一郎はひとしきり咲の動きを見た後、彼なりの視点で感じた欠点などを指摘してくれ、鬼と対峙した時の様々なパターンを考えて指導してくれた。
「咲は隠だからね。鬼を倒そうとはしなくていい。自分の身を守ることを最優先に考えるんだ」
そう言って、小刀に模した短い木刀でカンカンと咲と軽い打ち合いをした。
咲よりも僅かに背が高いだけで、その体躯もまだまだ華奢なのに、打ち合った時に発する重みには、「さすが柱だ」と咲を畏怖させる迫力があるのだった。
無一郎は続いて炭治郎に、通常の長い木刀に持ち替えて高速移動の稽古をつけてやったのだった。
咲の目にはほとんど見えないくらいの素早い打ち合いを繰り返す二人。
カカカカ、と木刀の乾いた音が辺りに響く。
無一郎はさすがの体さばきであるが、驚くべきは炭治郎がそれにしっかりとついて行っていることであった。
無一郎は鬼殺隊始まって以来の天才と呼ばれている。
何しろ通常は2年かかると言われている柱への道のりを、たった数ヶ月で駆け上ったのだ。
その彼にここまでついていけるのだから、やはり炭治郎はすごい。
彼が短期間の間にグングンと階級を上げていっていることを知っている咲は、見えないながらも二人の稽古から目が離せずに、ずっとその場に立って見つめていたのだった。