第13章 小刀と拳銃
咲に、刀鍛冶の里に行くようにとの指令が下った。
先日の温泉での一件を見て、あまりにも鬼に襲われる咲のことを心配した宇髄がお館様に相談してくれ、異例の措置であるが隠である咲のために武器が制作されたのだった。
本来、隠は武器を持たない。
剣士の補佐役である彼らが戦闘に加わることなど皆無に等しいからだ。
だが咲の場合は少し事情が違う。
咲は稀血の中でもさらに希少な稀血の人間である。
蟲柱であるしのぶ特製の藤の花の香水を常に付けているとは言え、やはりその強烈な稀血の匂いは隠しきれず、鬼を引き寄せてしまうことが多かった。
香水のおかげで喰われることは無いにしても、こう四六時中追い掛け回されていたのでは咲が心も体も疲弊してしまうだろうと、宇髄は心配してくれたのだ。
刀鍛冶の里は、鬼に襲撃されるのを防ぐために巧妙に隠されており、隠である咲も自分の足では行けないことになっている。
だから仲間の隠に背負われて、その道を行かなければならない。
たまたま他にも里に行く用事のある者がいるということで、みんなまとめて運ばれることになった。
その集合場所へと行ってみると、そこには炭治郎と先輩隠の後藤の姿があったのだった。
「あっ、炭治郎さん!」
「咲!久しぶり、元気だった?」
炭治郎と会うのは、先日活動写真を杏寿郎と三人で観に行った時以来であったので、咲の顔に自然と笑顔が浮かぶ。
「よー、咲」
後藤もひらひらと手を上げ、帽子と顔布の間から覗いている目を細めて声をかけてきた。
「後藤さん!」
咲も目を細めて、タタッと後藤の元へと駆け寄る。
後藤は咲が隠になって以来、何かと面倒を見てくれている先輩隠なのだ。
何くれとなく気にかけてくれ、任務ではよく助けてくれている。