第8章 あなたの笑顔が見たいから
「あ、そうだ。伊黒さん、これを……」
咲はふと思い出して、隊服の胸ポケットから小さく折りたたんだ紙を取り出すと、伊黒に手渡した。
それは、今度町で新しく開く甘味処のチラシであった。
咲は任務で移動する傍ら、こうやって食べ物屋の情報収集もして伊黒に提供しているのだ。
「いつもありがとう、咲。あぁ、これは美味しそうだな。今度甘露寺を誘って行ってみよう」
「きっと喜ばれると思いますよ」
ニッコリと咲が微笑むと、伊黒も同じように笑う。
その優しい笑顔を見て、咲はふと杏寿郎のことを思い出す。
(杏寿郎さんも、こんな風に優しく笑う。いつも優しい眼差しで私のことを見てくれる。あぁ、早く杏寿郎さんに会いたいな。あの太陽のような笑顔が見たい)
伊黒の笑顔に杏寿郎の笑顔を重ねながら、咲はそんなことを考えたのだった。