第5章 俺達が一緒に
次の日には杏寿郎にも咲にも新たな任務の指示が下り、二人は別々の任務先に赴くこととなったのだった。
煉獄家の門の前に立つ二人のことを、槇寿郎と千寿郎が見送りに出てきてくれる。
「咲、十分に気をつけるのだぞ。それと、ここは君の家も同然なのだからもっと帰ってきなさい」
「はい、ありがとうございます、槇寿郎おじさま」
「うむ」
息子達にはいまさら照れくさくて向けられない笑顔を浮かべながら槇寿郎は頷くと、今度は杏寿郎に向き直った。
「杏寿郎、お前も慢心せずにな。ところでお前、いつになったら咲と祝言を挙げるのだ?」
「よもや!!」
唐突なセリフに、昨夜感傷に浸ってしまったこともあり、杏寿郎の心臓は口から飛び出さんばかりに跳ね上がる。
だが……実はこれはいつものことなのだ。
槇寿郎はよほど咲のことを気に入っているらしく、思えば彼女がこの家にやって来てから割と早い段階でこのような事を言い出していた。
「おじさま、またそんな杏寿郎さんを困らせるようなことを仰って……」
すっかり聞き慣れている咲は、杏寿郎の胸の内など知る由もなく槇寿郎に苦言を呈する。
完全に冗談だと思っているのだ。
杏寿郎は何度それを訂正したいと思ったことか。
一方の槇寿郎の方は、男親だからなのか杏寿郎のそのような繊細微妙な気持ちにはあまり気づいておらず、とにかく咲を自分の娘にしたいという気持ちばかりが暴走してそんなことを言ってしまっているようだった。