第4章 わっしょい
杏寿郎の瞬足のおかげで、日暮れ前には二人は煉獄邸に到着したのだった。
事前に鴉で連絡を入れておいたので、玄関先で杏寿郎の弟の千寿郎が待ってくれていて、到着した二人を笑顔で出迎えた。
「おかえりなさいませ、兄上。それと……」
千寿郎はまず兄の杏寿郎に挨拶をした後、杏寿郎の背中から下ろしてもらった咲に顔を向けた。
だが、一瞬呆気に取られたような顔をしてポカンと口を開き、言葉が止まってしまった。
「……母上?」
ポカンとしている千寿郎に、杏寿郎が少し愉快そうな声で言った。
「似ているだろう、母上に。だが、母上ではないぞ、千寿郎」
「あ、いえ……申し訳ありません。ようこそいらっしゃいました、咲さん」
杏寿郎の声に、ハッと我に返ったようにして千寿郎が挨拶の続きを言った。
それから少しおずおずとした様子で咲の顔を見て、小さな声で言った。
「……母上のお写真に、よく似ていらっしゃったので、つい……。失礼いたしました」
そう言ってニコリと微笑んだ千寿郎に、今度は咲の方がポカンとする番だった。