第9章 ※亡くした者
静かな小屋の中、小雨がポツポツと窓をたたく音が響く。
いつもならクリスも同じように、部屋で本を読んでいるはずなのだが、フレッドから連絡を受けたと言って、一人で『W・W・W』へ行ってしまった。
危ないから一緒に行くと申し出たが、フレッドから頑として断られた。当然だ、今はクリスと一緒にいるが、元々生粋の純血主義者として生きてきたのだ。信用しろという方が難しいに決まっている。
それにしても、帰ってくるのが遅い。ドラコが本を読みつつそわそわ心配していると、パタンと戸口が開いた。
クリスかと思って素早く確認すると、戸口に立っていたのはクリスではなくシリウスだった。
「チッ……何だ、お前か」
「初手から舌打ちとは、随分と上品な育ちらしいな」
上から目線で哂うシリウスに、ドラコはまたしても小さく舌打ちをした。それを聞いて、シリウスはふと懐かしさを感じた。
(あぁ、そうだった。あいつも……レギュラスも同じように、俺に対してよく蔑んだ目で舌打ちをしていた)
両親の期待を一身に受けて育ったアイツは、完璧なる「純血主義」となり、そしてその結果、どんな最期を迎えたのか……。
そう思いながら、ふとドラコの顔を盗み見る。色素の薄い顔色も、少し細い顔の輪郭も、こうして見るとよく似ている。
それらを呆然と眺めてると、ドラコが3度目の舌打ちと共に噛みついてきた。
「一体なんだ?何か僕に用でもあるのか?」
「懐かしい……いや、俺を蔑む懐かしい瞳だと思っただけさ」
「……懐かしい?」
言っている意味が分からないと、怪訝な顔をしながらドラコはシリウスを無視し、再び本に視線を戻した。その横顔を眺めながら、シリウスは亡くした弟とよく似たブルーグレイの瞳を重ねた。
今度こそ守らなくては。あんな後味の悪い別れはこれっきりだ――。
新たな決意を胸に、シリウスはグッと固く拳を握った。