第5章 薔薇を塗ろう② トレイ・クローバー
「やっぱりトレイ先輩、ドゥードゥル・スート使ってたな」
重々しい口調でデュースはエースにそう言う。
「もしかして、がおかしくなったのって全部…トレイ先輩と付き合いだしてからじゃないか?」
エースは口にした瞬間に、頭の中でバラバラになっていたピースがはまっていくような開放感を感じた。
ドゥードゥル・スートと吐き出されたドリア。
そしてあの目…
茂みの中に隠れていたエースとデュースに向けられた敵意剥き出しの獣の瞳。
いや、獣なんて可愛いものでもないのかもしれない。
「こんな所で2人ともどうしたの?」
ひょっこりとが顔を出した。
つぶらな瞳に人懐こい性格。
華奢な体と透き通る白い肌。
まさにの存在はこのヴィランズ達が集まる世界では1輪の白い薔薇のような存在だった。
「お前、トレイ先輩と別れたほうがいいんじゃねぇの」
「おいっ、エース…!」
エースは飄々とした顔でに言い放つ。
は一瞬目を丸くしたが、悲しそうに唇を噛み締めて、視線を逸らした。
「…ううん、それは出来ない」
予想通りの返事だった。
「何でだ?お前はトレイ先輩におかしくされてる。食堂でドリアを吐き出したのも、トレイ先輩のユニーク魔法のせいだって、知ってんのか?」
つい怒りがフツフツと込み上げて、荒々しくにエースは言いつけた。
はまた目を見開いて、驚いた表情を見せたが、力なく微笑んだ。
「…私、ほんとは帰るつもりだったの。2ヶ月前にね。でも、帰ったときに、トレイ先輩のことが急に過ぎって戻ってきて今ここにいるの。確かにトレイ先輩のことは好き。でも、それだけじゃないの…私はここにいないと…」
ゆっくりと紡がれる糸のようには小さい声でそう呟いた。
「でも…」
エースは納得がいっていない様子で、俯くの肩に手を置こうとした瞬間、誰かにその手を払い除けられた。