第18章 そしてWCは伝説となる
初めて入った朱音の部屋は、あの安心できる朱音の匂いで一杯だった。ベッドや机、クローゼット等の全てが朱音が使っているというだけなのに新鮮に見えた。
『…あんまりキョロキョロしないでよ。恥ずかしいじゃない』
「あ、あぁ。すまない。だが興味が引かれるものは仕方ないだろう?」
『うー…』
朱音は拗ねたようにベッドに座った。さすがに家のベッドに堂々と座るわけにはいかなかった僕は、テーブルの前に座った。そしてあるモノが目に留まる。それはたくさんの写真が飾ってある額縁。鈴城中との写真もあれば僕たち帝光中との写真、家族の写真もある。それから中学時代のクラスメイト、誠凛でのクラスメイトの写真も存在している。どうやらテツヤと火神とは一緒のクラスのようだ。そしてその中にある、僕と朱音との2ショットの写真。夏に言った水族館のモノだった。朱音の母親はどうやらこの写真を見て僕の事を認識したようだ。
『どうしたの?あ、この写真?なんか懐かしいよね。あの時征ちゃんが手を挙げてびっくりしたよ。征ちゃん、イルカ好きなのかと思った』
「別に嫌いでもないがな。僕があの時挙手したのは…」
『分かってるよ。征ちゃんはあたしのためにしてくれたんでしょ。ありがとね、征ちゃん』
「…分かってるなら問題はない」
『何たってよく似た思考回路だからね。でしょ?』
部屋に2人の笑い声が響く。洛山のクラスメイトからは表情が変わった所を見た事がないとよく言われる。それを朱音に伝えると、少しだけ哀しそうに笑った。
『あたしやキセキの世代、誠凛女バスに言ったら笑われちゃうよ。けど、それだけ洛山には征ちゃんが征ちゃんらしくいられる場所がないって事だよね。それはやっぱ悲しい、かな』
「僕が僕らしく、か。そうかもしれないな。アイツらといるのは好きだし、信頼もしている。朱音に至っては愛してるし、僕が1番傍に居たい存在だ。その朱音が信頼している神守達ならもちろん信じれる。だから僕は僕らしくいられるのかもしれないな」
『…玲央さん達は?』
「玲央達の事ももちろん信頼しているよ。あいつらと一緒にするバスケも嫌いじゃない」
朱音は嬉しそうに良かった、と笑う。すると下からご飯だと呼ばれ、僕達は下に降りた。