第10章 りんねの先に
「いいよ、
イって」
「ひ、あぁっ、ハンジさ…!」
荒い息遣いだけが響く。
乱れた髪、どろどろにとろけた私たちの表情。
ベッドには愛の跡がにじんでいた。
「はは…かわいい」
「…なんか今日、激しかった」
私がそう囁くと、ハンジさんは一瞬顔をゆがめる。
「…ねえ、は今幸せ?」
「え?はい、とっても」
「そっか」
彼女は絡めた指に力を込め、泣きそうな瞳で私を見た。
「どうかしました?」
何か変だ。
この人は昔からいつも一人で思い悩む。
笑い飛ばしてくれていいよ、と前置きして、ハンジさんは口を開いた。
「が前世の記憶に囚われていて、今のこの関係は、過去の感情に引っ張られているだけなのかもしれないって…たまに考えちゃうんだ。
ごめん、忘れて」
私は目を丸くした。
どうしてそんなことを?
「ハンジさん」
沸々と滾るこの感情は、怒りか悲しみか。
なんにせよ、この愛しい恋人に伝えなくては。
私は上体を起こし、ベッドの上に座り込む。
「今までそんな風に思っていたんですか?
私からのキスも、言葉も、行為も、ぜんぶ過去の産物だって」
「そういう訳じゃ」
「私は…っ!新しい世界で、新しい人生を歩んでいます。
何回でもあなたに惚れ直して、今ここにいるんです……」
こんなに想いを吐露したのは初めてだ。
鼻の奥がツンと痛い。
「…ごめん」
差し込む月灯りがハンジさんをやわらかに照らす。
綺麗。
あなたのその鷲鼻も、唇も、切なげに揺れる心も。
「ばかだなあ…。そんなところも好きです、ハンジさん」
絞り出すような長い溜息。
ハンジさんは起き上がり、端正な顔を私の首筋に埋めて印をつける。
「ん…っ」
「。来世もその先も永遠に、私の傍にいて欲しい」
どんな呪いより強く、どんな祈りより切実な響き。
私はそれを甘受し、返事の代わりに口づけを贈った。