第7章 救うも止めるも艶を添えるも理性
目の前にはにこにことしている美和が居た。
下手をすると甘くなり過ぎる顔立ちに、短い髪が相変わらず似合っている。
「あんた、何か親父から聞いているか?」
「え? 何も。 なんか瑞稀くんの事よろしくって」
面倒くせえ。
親父の奴、中途半端な事やりやがって。
「会えて嬉しい」
美和が瑞稀の首に手を回し、反射的に瑞稀はそれを避けた。
「瑞稀くん?」
あの親父にすれば、『簡単なゲーム』なんだろう。
「私の事、本当に迷惑?」
迷惑だ、と言いそうになるのを堪える。
無言の瑞稀に美和は落胆したような表情をした。
「数ヶ月間、ずっと会いたかったのは私だけ?」
美和が涙声になる。
「……わかった。もう来ないから」
「待て」
ここで一人にすると危ない。
美和は口元を抑えながらドアに手を掛けた。
「送るから」
「……いい、一人で帰る」
「美和」
「止めて」
「落ち着けって」
「放っといて、痛い!」
止めようと腕を掴むと美和が顔を歪めて瑞稀を睨んだ。
「あたしの事嫌いなんでしょ? 離して」
聞き分けの無い事を言う。
そういう問題じゃない。
「……嫌いじゃない」
こういう時の女ってどう扱うのが正しいんだろう。
放り出しても後々面倒だ。
だからといって軽々しく好きだ、なんて言えない。
「もういい」
「少しは大人しくしろ」
ガチャ、と内側に開きかけたドアをバタンと締める。
美和の大きな瞳からポロポロと涙が零れた。
「う……」
そもそも俺は美和は嫌いじゃないんだ。
そんな相手に泣かれると困る。
「泣くな」
瑞稀は軽く美和を抱き締めた。
『欲』は無い。
一瞬澤子の顔がよぎった。
─── 一ヶ月のゲーム
「……っあ」
瑞稀は美和をテーブルに押し上げて首筋に口付ける。
「…ダメ、瑞稀くん…ここじゃ恥ずかしい」
「こういうのも悪くないと思うけど?」
自分の腰を美和の足の間に割り入れると、美和はかあっと赤くなった。
「あ、瑞稀く…」
身体は勝手に反応する。
まるで夢の続きみたいだ。