第6章 平穏さにこそ潜む
「瑞稀さん、お疲れ様でした」
稽古が終わり、逸巳に呼び止められた。
「崎元か。 お疲れ様」
「こないだはすみませんでした」
「……いや、こっちこそ悪かった」
「お詫びといっては何ですが、もし時間があれば家で夕飯でも食って行きません? 昨日色々作り過ぎて」
「お前料理すんの?」
「はい、唐揚げとか好きです?」
「唐揚げ……」
ただでさえ普通の食事を普段から食べない瑞稀にとっては魅力的な響きでは無かった。
しかし、父親が『食事』中である今は瑞稀は家に居たくないと思っている。
いつもはそういう時、大学の暇そうな同級生と飲みに行って時間を潰すのが常だった。
瑞稀の行く大学は私立でも金持ちが集まる所で暇や金を持て余している輩が多く、話す事と言ったら女や車の話ばかりでいい加減それも退屈だと思っていた所だ。
「うん、迷惑じゃないんなら。 ここの掃除終わらせてからでいいか」
「あ、僕も手伝います!」
逸巳は嬉々として片付けを手伝い始めた。
少し澤子の事が頭によぎった。
自分の体質の事を聞かされてからは益々女には近づくまいとも思っていたが、彼女を含めこの兄弟に興味を持っているのも確かだった。
あの姉といい、周りには居ないタイプだ。
こいつはどんな環境で育ったんだろう?