第4章 希望は頑丈な杖
家に着くと、逸巳はまだ帰っていないようだった。
澤子が冷蔵庫の中を見て夕飯の支度を始める。
暫くしてまたね、という若い女性の声の後に家のドアが開いた。
「ただいま」
「あれ、誰かと一緒だった?」
「うん、大学の友達」
「逸巳ももうそんな歳になったのねぇ」
感慨深げに澤子が逸巳を見る。
あんなに小さくて姉ちゃん、姉ちゃんと私の後をくっついて来た弟は、今は見上げるほどの男性に成長した。
姉の贔屓目かも知れないが、頭が良く素直な性格の弟は付き合う女性にも困る事は無いだろう。
「結婚したい相手が出来たら教えてね」
「なっ、なにそれ突然」
逸巳はわたわたと焦った様子で否定した。
「今は勉強とかで手一杯でそんな気が起こらないよ。
そんな相手も居ないし 」
「私の事なら気にしなくていいから」
「そんなのは関係ないけど……」
「そう?」
逸巳の事だから良い娘をお嫁さんにするんだろうな。
可愛い子供を持って休日はその子達と遊んで。
家の事もする優しい良い夫になりそうだ。
「そういえばこないだ道場で指導して貰った人がいたんだけど、俺より歳下なのに凄い強くてさ」
だけど自分の事となるとそんな先の事が想像出来ない。
ぼんやりと考え事をしている澤子をよそに、逸巳は楽しげに習い事の話をしている。
「身体の使い方が他の人と違うっていうか……他にも何かやってるって聞いたけどそのせいかも。 ああいう人だったらモテるんだろうけど」
そういえば三木もずっとジムに通いサッカーをしていると言ってた。
「……スポーツしてるからっていい人とも限らないと思うわ」