第4章 希望は頑丈な杖
……なんでこんな事になっているんだろう?
目の前には三木が澤子の前に立ち塞がっている。
「昨晩すぐ連絡したんだけど、全然出ないから誤解してるのかと思って」
『車で送っていく途中で無理矢理迫られて』
『彼女とはただの遊びだから』
何度か聞いた事のある台詞だが、よく分からない理屈だと思う。
向こうは遊び、こちらは本気と言われて嬉しい人が居るのだろうか。
……でも、慣れている。
今までにもそうやって去っていく男性はいたから。
それはいいのだが、先程から三木の距離が近い。
彼は澤子の仕事の帰りを待ち伏せていたようで、否応なしに人気の少ない通りに連れてこられた。
「……私、気にしてません」
早くその場から逃れたくて澤子はそう答えた。
三木はほっとした表情をして澤子の肩を掴んだ。
「良かった」
先程までの取り繕ったような様子が消えて、彼の表情に余裕、いや一種の傲慢さが垣間見える。
「僕達付き合ってるんだよね?」
三木の唇が澤子に触れる。
──嫌だ
そう思うが澤子はその場から動けない。
「澤ちゃん、なかなかキスも許してくれないから不安だった」
「……ごめ…なさい」
「そういう所も好きだけど、恋人同士なら少しは……ね?」
「は、い」
また今晩連絡するから、三木はそう言って澤子に手を振った。