第4章 希望は頑丈な杖
「瑞稀様、今日は遅い予定では……」
「親父はいるか?」
「は……今晩は出張でお戻りにならない予定でございます」
「そうか、ワズ」
「は」
「何か聞いてるか? 俺達の、その……例えば女に近付きすぎると相手の様子がおかしくなるとか」
「……いえ、私はなにも」
「そうか」
ワズは瑞稀が産まれる前から長年ここに仕えている執事だった。
他に何人かの召使いは居るが、家の采配の一切を任させれていた。
唯一、小田家の秘密を知っている人間でもある。
表沙汰に出来ないような事を知られない為に、瑞稀の父親は外部の人間を易々と家に入れる事はしなかった。
ワズが知らないならあれは気のせいかも知れない。
だけど、自分のあの感覚は何だったんだろう?
瑞稀は自分の唇に触れた。
彼女の柔らかい感触と甘い味。
もっと欲しいと思った。
単なる性欲だったのか?
女と距離を置けば何とかこれからもやり過ごせるような気がしていた。
血液だけで自分の体が持たないのなら、それで自分は終わっても良かった。
自分の身体の事なのに結局自分は親父に頼るしかない。
「……会いたいな」
瑞稀は呟いた。
余計な事を全て忘れられるなら、自分は多分花屋のあの女に会いたい。