第3章 健全な精神は健全な肉体に宿りかし
ワズは軽く会釈をして主人を見送る。
───やれやれ、相変わらずエネルギッシュな方だ。
瑞稀様は旦那様に対して否定的だが、ここに永らく勤めていると果たして旦那様の行いは間違ってるのだろうか、と思うようになる。
ベッドの上の女の肩には動物に噛まれた様な跡があり赤い血が滲んでいる。
旦那様は女達には極めて紳士的に振舞う。
端正な風貌や特異な体質、手練手管に優れているのも相まって、逆に喰われる事を旦那様に強請る女性も居る始末。
雌雄は違えどもその様子はまるでフェロモンに引き寄せられる昆虫のようだ。
キャビネットの上の写真立てには瑞稀の母親、つまり高雄の亡き妻が微笑んでいる。
彼女もそうだった。
なのになかなかそうなさらなかったのは旦那様の方だ。
奥様が亡くなってから旦那様は今のように変わられた。
御本人達は気付いてないようだが、瑞稀様は顔形だけでなく気質もどことなく昔の旦那様に似ている。
「ぁ、……会長ぉ」
蕩けた顔で呟く女に気付いてワズは苦笑した。