第14章 余章 ―― 夜話
「逸巳、神の愛って知ってるか」
「はあ、…瑞稀さんてキリスト教徒だっけ?」
逸巳の部屋で大学のレポートを書いていた瑞稀が唐突に話し始めた。
「大昔、神の御業によって雷に撃たれて別たれた自分の片割れを補うために、人は異性を欲する。
それがセックスである訳だが、俺はそれを超えた神愛の境地だ」
「瑞稀さん、今書いてるのそれ、学部理工だよね?」
「裸の美女を100人集めても俺は自制出来ると思う」
「つまり欲求不満てこと?」
「よく分かるな」
二人が婚約して一年、どうせなら結婚するまではお預け、という話に二人の間ではそうなっているらしい。
「それはいいんだけど、お前の姉、あれどうにかしてくれ」
「ああ……」
澤子は瑞稀にはすっかりもう気を許して、今夏の夜などはタンクトップやショートパンツという格好で瑞稀に擦り寄っている。
「いくら俺が神の愛を持ってても、あれで気付いたら隣で寝られるとか地獄だぞお前」
「それで最近僕の部屋に入り浸ってるって訳?」
「そう」
「……そんなに潔癖にならなくてもいいと思うけど」
「俺はどんな挑戦でも受ける」
今度は猪木になっている。
まあ確かにあれでは瑞稀が可哀想な気もする。
「でもそれ、瑞稀さんのせい」
「は、俺?」
「今までの男もそうだったけど、姉さんて無意識にアレなとこあるから自覚させなきゃ無理」
「それって俺が昔のあの下衆男みたいに見られてるって事か?」
「それはちょっと違うけど」
「本人に聞いてくる」
「ちょ……」
逸巳が止める間もなく瑞稀は部屋を出て行った。