第12章 春へ
「玄関先で止めてよ、もう」
逸巳が苦笑しながらぼやいている。
「学校はもう終わったの?」
「うん、これから飲み会。 晩御飯作りに来た」
「ごめんね。 迷惑掛けて」
「凄いな。 どこの兼業主婦だよお前」
「いや、……そうかな?」
逸巳は何故か照れながら手際良く料理をしている。
「いやでも、良かった。 二人とも心配したよ」
「済まない」
「ごめんなさい」
「まあいいけど……瑞稀さんは一発殴らせてもらう位で」
「は、お前に出来るもんならな」
「ちょっと……こんな所で暴れないで!!」
「痛て……ふざけてても手加減無しとかさぁ」
「いや手加減はしてるから」
「……くそ」
「ありがと、逸巳」
「うん、んじゃごゆっくり。 オヤスミ」
腰を擦りながら逸巳が出掛けていった。
「んー、最近鍛えてなかったからなまってるな」
瑞稀が壁にもたれて拳を握ったり開いたりしながら座って呟いている。
散らばった雑誌やらクッションを片付けながら澤子は呆れた。
「……あれだけ暴れれば充分だと思うけど」
……最初から思ってたけど、この二人ってなんだか兄弟みたいなのよね。
逸巳も瑞稀が戻るといつの間にか元気になってるし。
兄と弟が逆のような気もするけど。