第11章 感情は航海の帆を張る
「本当に」
声の方向を見ると瑞稀が腕を組んでこちらを見ていた。
結局また助けてもらったのだろうか。
「もう自分を傷付けるんじゃない」
「……うん、ごめんなさい」
いつもの瑞稀の様子にほっとすると同時に、自分の頬に涙が伝う感触を感じて澤子は慌てて目を押さえた。
「姉さん……傷が痛む? 深くて何針か縫ったんだよ」
「今日は念の為入院らしい」
額に触れる手を感じて目を開けると瑞稀が澤子の唇に口付けを落とした。
「馬鹿なことしたお仕置」
「……えっ?」
「え? 瑞稀さ…姉さん?」
突然のラブシーンに訳が解らないという風に逸巳は二人を交互に見る。
そして再び『あの』感覚が澤子の身体に走り、顔が一瞬で真っ赤になる。
「明日また家に行く。 それまで俺の事でも考えてろ」
瑞稀は悪戯っぽく笑ってさっさと病室を出て行った。
「ちょっ……!」
「えっ?……あれ?」
火照る身体を持て余す羽目になった澤子と相変わらず状況を理解していない逸巳は、二人で赤面したまま部屋に取り残された。