第11章 感情は航海の帆を張る
「姉さん、いい加減ちゃんと食べないと」
逸巳が心配そうに話しかけてくる。
澤子はこの所ずっと食欲が無い。
「うん……」
逸巳から無理矢理押し付けられた野菜スープを口に運んだ。
澤子はただ繰り返し繰り返し考えていた。
『来週時間空けといてくれる?』
そう言っていた瑞稀からはいくら待っても連絡が無かった。
『こうした方が分かりやすいのかな』
店で会った瑞稀からは表情が消えていた。
『俺、ずっとあんたに謝ろうと思ってたんだけど』
『好きだから』
熱っぽく私を抱き締めた。
『俺の一族は人を喰う』
人を────
澤子は瑞稀の家族が例え人殺しだとしても良かった。
だって瑞稀はそんな人じゃない。
瑞稀の家がどうあっても、私の目の前にいた瑞稀が私の全てだ。
瑞稀がまた離れていく。
そして今度はもう二度と会えない気がする。
「……嫌だ」
私は試すのは嫌だ。
自分で見て、自分で考えて、自分で選ぶ。
結果がどうなろうとも、甘んじて受け入れる。
私が初めて好きになった人。
──瑞稀のように。