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Mirror【R18】

第10章 前後を切断せよ


「これ、信頼とか、真実の愛って花言葉があるけど、素敵なお母様だったのね」
「母親は俺が生まれた時親父が喰ったらしいけど、よく分かんないな」
「……またそんな、変な冗談……」

澤子が笑いかけるが、瑞稀はにこりともしていない。

「……あっ」

葉を落としている最中に余所見をしていたせいで澤子の指先がハサミの刃で傷付いた。
皮膚の上の赤い点が盛り上がる。

瑞稀がそれをじっと見詰める。


「こうした方が分かりやすいのかな」

瑞稀は澤子の手を取るとそこを舐めた。

「え………あ?」

澤子の指先から身体が熱くなる。
立っていられなくなって澤子の足元がふらついた。
瑞稀が掴んでいる手首の辺りが特に熱い。

「瑞稀さん、何……」
「俺の体液のせい。 あんまり澤子にしたくなかったんだけど」

「ごめん、離して……」

澤子の顔が赤くなり、呼吸が浅くなっている。

「どういう状態か分かるよ。 痛みを感じさせないでその気にさせる為らしい」
「………っ」

澤子は皮膚に衣服が擦れる刺激で声を上げそうになった。
前に見た夢みたいな、いや、それよりもっと強烈な感覚。
目の前の男に自分を差し出したいという欲望。


瑞稀が澤子の手を離すと、澤子はその場にへたりと座り込んだ。


「あれ、澤ちゃんどうかした?」
「…………」

店長が澤子の様子に気付いてこちらにやって来た。

「それ位の量なら一、二時間で治まると思う。 気分が悪いとでも言って少し休ませてもらうといい。 ……邪魔して悪かった」

瑞稀はそう言って店を後にした。


「澤ちゃん、大丈夫?」
「は……い、あの私、少し気分が……」
「貧血とか? 奥で休んでて」


澤子はふらつく足でスタッフルームに向かい、ソファに横たわった。

「ん…っ」

止まない昂りで自分の身体を抱き締める。
動悸が激しい。

瑞稀は自分を普通の人間じゃないと言った。


人を、食べる。

「そんな……」


澤子は呆然と呟いた。





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