第10章 前後を切断せよ
「いらっしゃいませ……あら」
瑞稀が澤子の店を訪ねた。
「近くまで来たから。 今日は普通に客だけど」
「珍しいわね」
澤子は瑞稀にぎこちない笑顔を返す。
「あれ、なんて言うんだっけ。 白い菊みたいな」
瑞稀がショーケースの中の花を指差した。
「マーガレットね」
「母親が好きな花だったらしい。 今日は命日で」
「そう……花瓶に? 少し切る?」
「いや、そのままでいい」
瑞稀の母親。
亡くなったとは聞いていたけど、詳しくは知らない。
こないだの一件から澤子は瑞稀と話していなかった。
どう話せばいいのか分からない。
『俺の一族は人を喰う』
瑞稀からいきなり自分は普通の人間じゃないと言われても、澤子はにわかには信じられなかった。
話の途中で逸巳が来て、会話も中途半端なままだ。
たちの悪い冗談としか思えない。