第9章 対話、それぞれの都合
食事が終わり、逸巳が風呂に入っている間ベランダに出て外を眺めている瑞稀に話しかけた。
「もう外は寒いね」
「……ん、そうだな」
住宅街の中に、宵の明星が光っている。
「久しぶりに来ると落ち着くな、ここ」
「そう? なら嬉しいけど」
落ち着ける場所。
瑞稀の家はそうじゃないんだろうか。
「こないだの事……私、ごめんね。 取り乱して」
「そうじゃない」
「あんたはああいう時は怒っていい。 言ったことは謝らないけどした事はこっちが悪い」
「だって試してるって……それは私が悪いんでしょう」
「違うの? 男って本来あんなもんだって、そんなの澤子の方がよく分かってそうだけど」
それは考えて、よく分かった。
自分が考え無しで軽率だったように思う。
でも、正直瑞稀に対してもそうだったとはあまり思えない。
「……瑞稀さんも?」
瑞稀は間を置いて答えた。
「うん」
つ、と澤子の胸元を指差す。
「その服の下とか想像する」
「抱いたらどんな風かなとか」
「……瑞稀さん?」
「その時の肌とか声とか」
「瑞稀さん、もう…」
「澤子が感じて乱れた時とか」
「まって!」
お願いだから真顔で言わないで。
流石に刺激が強すぎて、澤子はゆでダコみたいな顔になっている。
なんでいきなりこんな事言い出すんだろう。