第5章 恐怖
「な、何で私が妊娠しているのよ!」
「だから、俺はお前と一度もした覚えはねーよ!」
「じゃあ何で、誰ともしたことがない私が妊娠してるのよ!」
「……もう俺知らね。自分で何とかしろよ」
「え!?ちょっと!」
彼に家から出て行かれてしまった。
私は誰とも交わったことがないのに、何故か妊娠していたのだ。
可能性があるのは付き合っていた彼氏だけだったので、彼に聞いてみたのだが、知らないと言い張って出ていってしまった。
「もう…何で…」
疲れてしまい、気づけば私は街にある公園のベンチに座っていた。
「これから私、どうすればいいんだろう…」
そのまま産んで育てると言っても、たった今彼に嫌われてしまった私一人で育てられる訳がない。
悶々と考えていると、知らない男性が私の隣に座ってきた。
「お嬢さん、如何したんだい?浮かない顔して」
聞かれた私は男性にこの事を話そうか迷ったが、一人で抱え込むのも辛いと思い、話すことにした。
「あの、私―――」
「そうかい…そんな事があったんだね」
「はい…私、如何すれば良いのか…」
「良かったあ。これで漸く名前は私のものだ」
「え……?」
「実は君を妊娠させたのは私なんだぁ。ずっと君を見ていて、如何すれば君を彼奴から離すことが出来るのかって、ずうっと考えてたんだぁ。そして、私は閃いたんだ。君が気付かない内に君を犯せば、妊娠して彼と別れるんじゃないかって。そしたら本当に叶った…これ以上無い幸せだよ」
「あ、貴方何してるんですか!?こんなの犯罪です!警察に通報しますよ!」
「あぁ、その必要は無いよ。だってこれから君と私は夫婦になるんだもの」
「……は?」
「嗚呼、楽しみだなあ。これから名前とずうっと一緒に過ごせるなんて!」
何か言い返そうと私は思った。
――然し、彼の狂気じみた表情や行動から、もう逃げられないと悟った。