第6章 呪われし美姫と 英明な従者
『…そう、貴方はリリアというのね』
「以後お見知り置きを。お姫様」
リリアはおどけたように、ぺこりと頭を下げる。
『ありがとうリリア。私にかけられた呪いを弱めてくれて。感謝するわ。
…それでね、リリア…。貴方に聞きたい事があるの』
オーロラが人差し指と人差し指をくっつけて、もじもじとしながらリリアに問う。
『以前、貴方と一緒にいた…頭に2本角が生えた人がいたでしょう?
あの人の名前を、教えてもらえる?』
リリアは頬をぷくりと膨らませて答える。
「そうかそうか。お姫様は、目の前にいるワシよりも
一目見ただけのマレウスの方にご執心というわけじゃな」
『…マレウス』
リリアは拗ねたように言ってはみたが。内心は幸福感に満ちていた。
彼は信じていたのだ。この目の前の彼女こそが、マレウスを変えてくれる存在なのだと。
冷たく凍ってしまっているマレウスの心を、溶かしてくれるのはきっと彼女しかいないのだと。
しかし同時に、彼の心の中には迷いも生じていた。彼女に話すべきがどうか迷っているのだ。
マレウスこそが、オーロラに呪いをかけた張本人であるという事。
あのドラゴンとマレウスが、同一人物であるという事実を。
しかし結局、リリアは話さないと決めた。
マレウスとオーロラが本当に運命の糸で結ばれているのなら、自分が話さなくても、きっといつか本人達が乗り越えるだろう。
そう思ったから。
オーロラは、そんなリリアの胸中など知りはしないが。
やっと知る事の出来たその名前を噛み締めていた。