第5章 ユニークなトランプ達は踊る
『今日はなんて素敵な日なのかしら!
お友達がいっぺんに3人も出来てしまうなんて』
“ 友達 ” をまたも口にするオーロラ。まぁでも
こんなふうに喜んでもらえるのなら、それだけでわざわざ遠い地から足を運んだ甲斐があるというもの。
「…じゃあ、そんな記念すべき日に
友達としてダンスにお誘いしてもいいか?」
そう言って、彼女に手を差し伸べるトレイは
もう敬語を口にはしなかった。
『トレイ、それはとても良い考え!
勿論、踊りましょ』
彼女は快諾して、その差し出された手を取る。
本来であれば、王女が他国の従者とダンスを踊る事などまずない。
身分の違いという壁が当然邪魔をするからだ。
しかし、オーロラはそういった類の事は一切気にしない。
『…驚いた、トレイ…。
貴方すごく上手なのね。踊るのが』
トレイの肩の上に手を乗せ、身を任せるオーロラ。
ただ力を抜いて、楽にしているだけで次の動作が彼によって引き出される感覚。
2人のダンスを見ている群衆も、トレイがただの従者だと気付かない。
あまりに優雅な身のこなしに、あれは一体どこの貴族だ?との声があがるほどだ。
「うーん…踊りが得意っていうか、俺の場合は…
多分、観察眼が人より少しあるだけだと思う。
相手が、どのタイミングでどう動くか。それを予想して、サポートする。
それをただ繰り返してるだけだな」
そう。トレイにとって、ダンスはただの作業に過ぎなかった。
時折リドルの付き人として社交界に出向く。その時に女性にダンスに誘われても、恥をかかない程度に頭に詰め込んだ知識。
しかし、今日だけは違った。
初めて自分からダンスに人を誘った。
彼は今日初めて知った。ダンスとは、こんなにも胸が高鳴るものだったのだと。
握り合う手も、密着する体も、自分に身を任せてくれる彼女も、
全部が胸をドキドキさせた。
曲が、このまま一生鳴り終わらなければいいと思った。
しかし当然そんな願いは叶う事はなく。音が止むと、トレイの夢は覚めてしまうのだった。