第26章 眠り姫の物語
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「そろそろ “ これから ” の話をしても良いだろうか」
フィリップが退場した後で、口を開いたマレウス。
この国を貶めようとしていた者が、既に退治されていた。そういう事実に落ち着き、和みかけていたステファン。しかし再び彼の中に緊張が走った。
彼には、分かったのだ。
マレウスがこれから、自分の大切なものを奪ってゆく事。
「さて…、ようやく勉強の成果が出せる日が来たのだな」
マレウスは、しみじみと言った。そして、過去に読んだ文献にあった言葉を並べる。
「娘さんを、僕に下さい」
「!!」
『え、何それ面白い。マレウス、それとても人間っぽい!』
「ふふ。そうだろう?
だが、面白い…か。何か間違っていただろうか。人の世では、義父にこうして許しを請うのが定石なのであろう?」
『うーん、まぁそうなのだけど…それって王族にも適応されるのかしら。あれ?なんだか私にもよく分からないわ』
2人して首を傾げているところに、ステファンは言った。
「…国王の椅子を、受け渡せと さきほど言っていたな」
「あぁ。間違いなく、それは僕の言葉だ。
愛する人の、愛する国を変えるために…その座は必要不可欠だからな」
「そうか…。だが、この椅子は やれない」
ステファンの言葉に、ローズとマレウスは きつく口を結んだ。
その様子を見た国王は、すぐに言葉を付け足す。
「まだやれない。 “ 今は ” な。
まずは…王子の椅子で、満足しておいたらどうだ?マレウス」
『っ!お父様っ…!それじゃあ…!』
マレウスは、胸に集まる熱を感じながら、静かに頭を下げた。
この日、この時この瞬間。
ローズとマレウスの婚姻が、認められたのである。