第25章 全てを 超えて
「…遅くなって、すまなかったな」
思っていたよりも、細くて情けない声色だった。こんな声が自分から発せられるのだと、彼は少しだけ驚いた。
「ずっと…言わなければと、思っていた事がある。聞いてくれるか?ローズ」
柔らかく微笑んでみても、微笑み返してくれる彼女は、今はいない。
「……ドラゴンの正体は、僕だ。そして
お前を…呪ったのも、この 僕だ。
許してくれとは言うまい。だが どうしても、自分の口から 言いたかった。謝りたかったんだ。
リリアを傷付けられた報復に、ローズを利用してしまった。本当に、すまなかった」
謝ってみても、心は一切軽くならない。
張り裂けそうに胸が痛んだが、なんとかそのまま言葉を続ける。
「後悔した、心の底から。もし自分が死んで、呪いが無かった事になるなら…それでも構わないと思えるほどに」
しかし、問題はそう単純では無い。
きっとマレウスが死したとて、ローズに施された呪いは消え去る事はない。むしろ、死がその効力を強めてしまう可能性すらある。呪いとは、そういうものだ。
「だが、こんな愚かな僕に、お前は優しくしてくれた。
美しい歌声を聴かせ、心が浄化されるような微笑みを向けてくれた。
…自分を呪ったのが僕であると、知らなかったからかもしれない。それでも…嬉しかった。
生まれてきた意味を知った気がした」
マレウスは 少しだけ腰を曲げ、ローズの手に 自分の手をそっと重ねた。
彼女の体温が、冷えた彼の手を優しく温めた。
「まさか、この僕が…こんなふうに誰かを想えると、知らなかった。
きっと…この気持ちを知るために、僕はこの世に生を受けたのだろうな。
今、僕の心にある この想い…。それがどんなものかは、ローズがその目を開いた後に、聞いてもらいたい」
マレウスは ついに、恋い焦がれた彼女の その唇に 口付けを落とした。
しかし。
ローズは目を開かない。