第16章 運命とガラスの靴
ジェイドは、自分でも気が付かない内にローズへと手を伸ばしていた。
この胸の中の、チクチクしていて温かい 得体の知れない物体。ローズを抱き締める事で、その物体の正体を見極めようとした。
が。
「貴方達ーー!よくやってくれたわねぇ!!」
突然どこからともなく姿を現したゴットマザーが、ジェイドよりも先にローズを腕の中に閉じ込めてしまった。
『ぅっ、苦しい…』
「………」
恨めしそうな視線を向けているジェイドなんて何のその!ゴットマザーは勢い良く言葉を続ける。
「2人のおかげで、王子様とシンデレラは恋に落ちるわ!」
「…まだ恋には落ちていないようですけどねぇ」
彼は瞳を三日月型に歪め、ゴットマザーに異議を唱えた。
「大丈夫よ!だってあの2人は…
恋に落ちる、運命だから!!」
自信満々に宣言する魔法使い。
「…そうですか。まぁその運命とやらに、振り落とされないように 必死にしがみついて下さい。と、彼女にお伝え下さい」
『ジェイド…』
どうやら、運命は一本道ではないと 考えを改変したらしいジェイドに。ローズは思わず顔を綻ばせて、彼の名を呼んだ。
その瞬間。
ぐらりと、地面が歪んだ。
「『!?』」
「もうこっちに来ちゃ駄目よ!!2人とも元気でね?本当にありがとうー!」
そう言って手を振る魔法使いが、どんどん小さくなっていく。その様子を見て、やっと2人は気が付いた。
自分達が、落ちて行っている事に。
ジェイドは落ちながらも周りを見渡す。落下の速度が早くて分かりづらいが、ぐにゃりと文字盤や針が歪んだ時計や、キラキラ眩しく光るガラスの靴。まるでミニチュアサイズのお城。そんなものが真っ暗の穴の中に散らばっている。
経験した事もないような異空間。彼に分かるのは、きっともうすぐ自分の世界に帰れるのだという事だけ。
ジェイドは、懸命に隣で同じように落下運動中のローズへと手を伸ばす。
それに気が付いた彼女も、彼の方へと手を伸ばした。
素早くその細い手首を捕まえると、長い腕と広い胸を向かって、出来る限りローズを大きく包み込んだ。
このまま地面に叩きつけられる…などという結果にはならないだろうが。
こんなところでローズを失うなど、絶対にジェイドは許せなかったから。