第16章 運命とガラスの靴
「…なるほど。
シンデレラさんは、王子に好きな人がいると聞いても諦めなかった。
真実の運命に導かれるよう、自ら戦い 努力したと」
その言葉に頷くローズを見て、ジェイドはさらに言葉を続ける。
「必ずしも、運命は一本道ではない。自分の努力によって…
“ 運命は変えられる ” 貴女は、そうおっしゃりたいんですね?」
『そう』
自らの理論体系をひっくり返さんとする、その考え方に。ジェイドはくつくつと沸き起こってくる笑いを殺す事が出来なかった。
「ふふ…っ。たしかに、そう考えた方が 断然面白いですね。
退屈は、うつぼをも殺しますから」
『…から…、し も……う』
ジェイドの声を聞いてか聞かずかは分からないが。ローズは真剣な顔をし、重い声で何かを呟いた。
ジェイドは、そんな彼女の腹の奥からの声を聞いた。
“ だから、私も、戦う ”
たしかにローズはそう言った。
「………」
ジェイドはやっと、気が付いた。
ローズとシンデレラは、どこかよく似ている事に。きっと、2人ともが運命と戦っているから。瞳の奥に、強い意志をたたえているように見えるのも。言葉の一音一音に魂がこもっているように聞こえるのも、きっと彼女達が必死で戦っているから。
自分のような嘘付きには、他の嘘付きが分かるように。
運命に抗う者にもまた、同類を見分ける事が出来るのだろう。
だからローズは、シンデレラを無条件で信じる事が出来たのではないだろうか。
ジェイドは、勝手にそう憶測を立ててみるのだった。
改めてローズを見下ろす。
目には相変わらず強い力が宿っていて。唇は固く結ばれ、両の拳はきつく握り込まれている。
小さく華奢に見えるのに、戦う意思が体から溢れているのが感じられた。
「…そんなに小さい身体で…、貴女はどうしてそうも運命に抗おうとするのですか。
逃げて仕舞えば良いでしょう。流されてしまえば良いでしょう」