第15章 忍び寄る海のギャング
————
彼が、なぜフロイドに扮してローズの前に現れたのか…。それは語るには、現在から時を遡り。さらに場所も変わって、オクタヴィネル城。全てはここにあった。
「あの男…存外優秀でしたね」
アズールは、エースからの手紙を読むなり呟いた。そんな彼の隣には、ジェイドの姿もあった。
「やはり…フロイドと彼女は行動を共にしていたのですね」
そんなにもフロイドを楽しませる要素が、ローズに?と。ジェイドは首を傾げる。
「……ひとまずは、その件は置いておきましょう。それよりも今は、お姫様に例の薬品を付着させる事に成功した。こちらの話が火急です」
ニヤリ、と口角を歪めるアズール。
「えぇ。その通りですね。たしかあの薬品の効力は3日間。急がないと効果が切れてしまいます」
ジェイドは、右手で十時を切ると。ゆっくりと目を細める。そして辺りを見渡した。
「見えますか?」
アズールは、ジェイドの言葉を待ち切れずに そう問うた。
「はい。問題無く」
暗闇の中で見た強い光のせいで、目に残ってしまう残像のように。ゆらゆらと光るランプの明かりのように。ハッキリとジェイドには見えていた。
「…その光の先に、お姫様はいるはずです。フロイドがハーツラビュルから戻る前に発って下さい。
ジェイド、分かっていますね。コレを…必ず姫に飲ませるのです。どんな手段を、使ってでも」
アズールは冷たい瞳で、そう言い放った。そして 貝殻を模した小瓶を、ジェイドに手渡す。
「勿論、心得ていますよ」
その答えに 満足そうに微笑んだアズールは、ジェイドにある液体を勧める。
「これで、フロイドになりすまして 彼女に近付きなさい」
試験管の中には、特徴的な匂いと3色に光る液体。これは間違いなく、声変え薬だ。
それを一気に飲み干したジェイド。
「あ、…あーぁー。んん゛っ。
アハッ、どうーアズール〜。ちゃんと出来てる?」
「気味が悪い程に完璧ですよ」
髪の分け目を変え。ピアスを反対の耳に付け替えて。彼は彼女のいる森の家へと向かうのだった。
ジェイドには見えている。ローズの元へと確実に導いてくれる、光の残像が。