第12章 貴女の心が欲しいスペード
デュースは、迷っていた。
選択を迫られていた。目の前の男に。
「ほらほらお兄さん!いま買っておかないと絶対後悔するって!」
「う、、ちょっと待ってくれ、俺にもう少し考える時間をくれ!」
彼がこの状況に陥った、数十分前に遡る。
—————数十分前
彼は、ローズがいる家から1番近い、市場に来ていた。
主な目的は食料品の調達。リドルから資金を預かり買い出しに赴いていた。
「パン、林檎に卵…トレイ先輩に頼まれてた薄力粉も買ったな。
よし!買い漏れは無し、と」
デュースは買い物リストのメモを確認する。買い逃しが無いことを確認すると、それをポケットにしまった。
早速この荷物を持って、あの小さな家に向かう事にする。
現在はトレイが家にいるので、彼と交代するのだ。今夜から数日間は、ローズを守る役目はデュースの番となる。
デュースの頬は、ついつい緩む。
ローズと一緒の時間が過ごせると想像するだけで、彼の心は弾んだ。
彼もまた、数年前に生まれた小さな恋心を 少しずつ育んできた。
しかし…デュースの心には葛藤があった。
ローズと彼には、あまりにも大きな壁があった。
それは…身分の違い。王族でも、貴族でも無い自分が。
彼女の事を堂々と愛しても良いのか。
堂々と好きだと言葉にしても良いのか。
彼には、分からない。