第11章 菓子より甘いはクローバー
トレイは、ローズが泣き止むまで馬鹿みたいにその場に立ち尽くしていた。
悔しかった。
今すぐに彼女に駆け寄って、その細い肩を抱き寄せて、震える背中に腕を回して。自分の胸の中に閉じ込めてしまいたい。
それが出来ない自分が 悔しかった。
そして、彼は誓った。
こんなふうに、ローズが1人隠れて泣かなくても良いように
自分こそが、彼女の “ 特別 ” になってみせる と。
その想いは、時が経つごとに強くなった。
ローズの命を繋ぐ為に、運命の相手にならなくては。
そんな事は、彼にとっては関係なくなっていた。
例え彼女がそういう境遇になくても、きっとトレイは彼女に恋をしたから。
使命感とか、義務感とかはもう必要なかったのだ。
もちろん、現在もその想いは変わっていない。
「……美味いか?」
『うん!!美味しい!』
この笑顔を守りたい。そんなありきたりな恋心を、彼女が知ったら笑うだろうか。
「そうか、よかったな」
トレイはおもむろに手を伸ばし、彼女の頭をくしゃりと撫でる。
その想いを伝えるには、どうすれば良いだろうか。
もはや大き過ぎて、言葉では上手く伝えられる気がしない。
余談ではあるが、ローズがぺろりと平らげた トレイ手製のクッキーは、アルファベット型であった。
もちろん彼女は気付く様子は微塵もなかったが、そのアルファベットを並び替えると…
とあるメッセージが浮かび上がる。
それは、トレイがまさにローズに伝えたい想いが込められていた。
…L.O.V.E Y.O.U