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眠り姫の物語【ツイステ】

第1章 畏怖の念を抱かれし存在




「……はぁ」

茨の谷にそびえ立つ自分の城へ戻るなり、マレウスはあからさまな溜息をついた。

「まぁ…そう気を落とすでない」

リリアとて分かっている。こんな気休めを言ったところで、主人の気持ちが軽くなるわけはないと。

「僕は、何を間違ってしまったのか…」

もはや、その落ち込みようと来たら。これ以上どう声をかけていいものか。リリアの手には負えそうにない。

「絶対に失敗しないようにと、この本を読んで贈り物を選んだというのに」

リリアは、彼のその言葉を受けてマレウスの手元に視線を落とした。

手の中には、たしかに1冊の本が。その本には、

“素敵なプレゼントの選び方” そう書かれていた。

「ふむ…。 して、その本には一体何と書かれておったのじゃ?

まさか、幼きおなごにグロテスクなガーゴイルを贈れ。とは記されておらんかったろう」

リリアの嫌味ったらしい言い方に、些か不服そうにマレウスは口を開いた。

「…相手に喜んでもらうには、自分の1番好きな物を贈れ。と書いてあったんだ」

「よしマレウス。その本を貸せ。わしの魔法で今すぐ消し炭にしてやろう」

リリアは落ち込むマレウスに手を伸ばして本を要求した。

「驚きの決断だな」

マレウスは、彼に本を渡す事はしなかった。


勿論、リリアは分かっていた。その本や、マレウスが悪くない事くらい。

悪いのは、事前に彼が何を贈るか把握していなかった自分自身。

「すまんかったな。マレウス…」

素直に謝罪の弁を口にする。

「…それは、何に対する謝罪だ」

「わしが事前に、贈り物を共に選定さえしておれば

こんな事にはならなかったと思っての」

彼は、大胆に跳ねた髪先を触りながら呟くように言った。

「…いや、いいんだ。

僕の贈り物は…。彼女には、気に入ってもらえたようだからな」

マレウスは、ふわりとその美しい瞳を閉じた。

きっといま彼は

自分へ懸命に手を伸ばしながら、最高の笑顔を向けてくれた
彼女の事を思い出しているに違いなかった。
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