第1章 髪の毛
明るくて、男勝りな性格だった担任はクラスのみんなから好かれていた。
みんなでお見舞いに行くからと何度も誘われたが僕は行かなかった。
いやきっと、怖かったんだ。
いつも僕を追いかけてくるあの担任が病院のベッドの上にいるなんて信じたくなかったし、見たくなかった。
中学最後の日が近づいたある日、僕は初日に担任が言った言葉を思い出し、一人で病院へ向かった。
その時既に、担任は意識がなかった。
機械音が響く病室。
真っ白なシーツの上に広げられた担任の長い髪の毛が、やけに映えて見えた。
「バイバイ」
最後に投げかけることができたのは、そのたった一言だった。
「おい。大丈夫か?ぼーっとして…」
「あぁ。中3の初日に言われたこと思い出してた」
「あー!あれは衝撃だったよな。まだ中3になったばかりなのに、この1年で見つけた大切なものを入れましょう!って。
ほんと、担任ぶっ飛んでる…お!出てきたみたいだぞ!」
みんなの視線の上へと、少し古びたあの缶が持ち上げられる。
開けるとそこには、きちんと全員分の箱が入っていた。
クラス委員が配っていき、渡された人はそれぞれに、自分が入れたものに対して反応していく。
「いやぁ~俺、彼女からもらったミサンガ入れてた。忘れてたわ!つか俺、可愛すぎ!!」
親友が箱の中身を見せながら近づいてきたかと思うと、「お前の」と、僕の名前が書かれた箱を渡される。
「・・・開けねーの?」
「何入れたか、なんとなく覚えてるから。ここではやめとく」
「はぁ!?そんな見られたらやべーもん入れたのかよ!」
怖い怖いと騒ぎ立てる親友にニコリと笑みを浮かべると、「逆に怖い」と震えだす。
「あ。一つ訂正しておくよ。初日、この1年で見つけた”大切なもの”じゃなくて、”大好きなもの”って担任は言ったんだよ」
「・・・一緒じゃね?」
僕にとっては大きな違いなんだこれが。
タイムカプセル掘り起こし会が終わり、みんなが同窓会へと足を運ぶ中僕は、1人家に帰った。
自室で箱を開けてみる。
「・・・やっぱり」
僕の記憶は正しかった。
箱の中身には、折りたたまれたノートの切れ端が入っていた。
散ってしまわないように、大事に包んで入れておいたんだ。
この中に。
ゆっくりゆっくり広げると、そこには僕が中学3年の1年間で見つけた”大好きなもの”。