第1章 髪の毛
時は三月。
成人式を終えた僕たち元3年1組の生徒は、同窓会の前に学び舎へと足を運んだ。
正門前に次々と集まり始めるスーツやドレス姿の新成人たちを確認すると、当時のクラス委員が点呼を取る。
1人1人、再会を喜びながら、名前を読み上げていく。
「よし。全員いるな」
協調性がスローガンだっただけはある。
3年1組の生徒は全員来ていた。
「じゃあ移動するぞ~」
クラス委員が先導し、校庭に向かう。
校庭の、右側のフェンスの、校舎側から3本目の木の根元。
そこに僕たちが集まった目的が埋まっている。
「掘る人!」
クラス委員の質問に、当時から力自慢のヤツと、ひょろだったのに随分といい体格になったヤツが手を上げ、スコップを手に持つと迷いなく土を掘り進めていく。
成人式の日にクラスで集まって掘るものといえば、一つしかないだろう。
”タイムカプセル”だ。
中3の最後の日、個人の名前が書かれた小さな箱に思い思いのものを入れ、それをまとめて大きな缶に入れ、ここに埋めた。
「楽しみだ」「見たくない」など、みんなが様々な気持ちを口に出す中で一人、
「先生も居ればなぁ・・・」
そう呟く声。
タイムカプセルの発案者は他でもない。担任だった。
しかし彼女はここにはいない。
「・・・きっと居るよ」
また一人が呟く。
僕らの担任は、僕らの成人姿を…ましてや卒業姿すら見ることなくこの世を去った。
3年生になりたての僕らに「中学最後の日にタイムカプセルを」と発案しておいて、自分は参加も、見届けることすらせずいなくなったのだ。
「しんみりしてんなぁ!お前、可愛がられてたもんな!」
勢いよく肩に手を回してきたコイツは、僕の親友だ。
「可愛がられていたわけじゃない。デキが悪くて怒られてたんだ」
肩を組まれたまま答えると「またまた~」と茶化してくる。
…そうだ。僕は勉強が嫌いで、先生の言うことも嫌いだった。
宿題をやらなくて怒られ、先生からの呼び出しを無視して怒られ、俗に言う”問題児”だった。
そんな僕を、だんだん大人は相手にしなくなっていった。
しかし、担任は違った。
僕がどんなに反抗しようとも、諦めることはなかった。
それが嬉しかったんだと思う。僕は。
そして、素直になれなかった罰が当たったんだ。
初めて宿題をやった日だった。
その日、僕の目の前で担任は倒れた。