第2章 足並みの乱れ
うっとうしい梅雨明け、
空には真っ白な入道雲。
五十嵐学園の生徒達にとって、
何より厳しい試練である
期末テストも終わり、
校内には夏休みを待つだけの
呑気な空気が満ちている。
大野智は、学食の一角にいた。
五十嵐学園の学食は、
なかなかクオリティーが高く
A定食のメインはカキフライ
キンピラとほうれん草の
お浸しの小鉢がついて、
味噌汁にご飯はお代わりし放題と
高校生のお子様に食べさせるのは
もったいないようなメニューが
なんと破格の400円!
一人じゃろくに食事を食べない
智にとって、一日でもっとも豪華な
食事だった。
その上、さっき携帯を確認したら
『智さん♡今夜、泊りにいくよ♡』
との、翔から、♡マークつきの嬉しい
ラインが届いていた。
スポーツ推薦で大学に入った翔は、
当然サッカー部の期待の新星だった。
練習三昧の毎日の上、
真面目な翔は講義を
サボったりしないから、
なかなか智とのデートにさく時間が
取れない。
前に逢ったのは、
もう二週間も前のことになる。
(やったー!!
久しぶりの熱々な夜になぁ~♡)
ってなわけで、
智はとってもご機嫌だった。
「う~ん、し、あ、わ、せ…♡」
と、ご満悦で、大好きな
カキフライにかぶりついた。
突然、ドンと、カツカレーと
キツネうどんの乗ったトレイが、
智の右脇に置かれた。
「大野先生、男と付き合ってるって
ホントですか?」
と、断りもなく隣の席に座ってきた男の
第一声は、あまりに不躾な質問だった。
「ウソですよねー。
いくら五十嵐に妙な連中が
多いからって、先生まで
そんな風潮に流されたり
しないですよね」