第1章 もっと。
「フロイド、わかっていますね?」
「わかってるって〜」
「まったく…。監督生さん、僕は部活へ行きますので、良かったらデザートを堪能してきてください。ではまた。」
軽く会釈をしてジェイド先輩は部活へと向かった。
必然的にフロイド先輩と2人きりになる。恐る恐る見上げると、「じゃ、行こっか〜」と言って先を歩き始めた。
機嫌は良いようだ。フロイド先輩に会う時はいつもジェイド先輩も一緒だったから、2人きりになるのは久しぶりだった。
オクタヴィネル寮へ続く鏡を抜け、モストロラウンジへ向かおうとすると、「あ、小エビちゃんこっちこっち。」と手招きされる。
ラウンジとは反対の道へ進んでいくフロイド先輩の後ろをついていく。
「部屋に忘れ物しちゃったから来て?」
「は、はい。」
向かっていたのは先輩の部屋のようだ。モストロラウンジも大きな水槽があって素敵なところだけれど、寮の中も海の中のようで、どこかひんやりとした空気が肌に触れる。陽の光が届かない、まるで深海のような空間。
「ここがフロイド先輩の部屋ですか?」
部屋に通され辺りを見渡す。どうやら2人部屋のようだ。2人分のデスクに身長の高いフロイド先輩のサイズに合った大きめのベッド、貝殻がモチーフのルームランプ…無駄なものはないと言った感じの部屋。
「そうだよ、俺とジェイドの部屋〜」
触れられたわけでもないのに、ぬっと後ろから耳元へ顔を近づけられ思わずビクッとしてしまった。
「こっちが俺のベッドで、あっちがジェイド。」
「あ、あの、忘れ物…は…?」
「んなもん、あるわけないじゃ〜ん?」
トンと背中を押されたかと思うと躓いてしまうがさほど痛みはなく、どうやらベッドの布団に助けられたようだ。
「小エビちゃんばかだなぁ、簡単に雄について来ちゃダメだよ?」
上から降り注ぐ声に振り向くと、フロイド先輩がニヤっと笑って見下ろしている。