第71章 商人の町
次の日、昼前に堺を出立した私たちは、大坂城へ帰城するべく馬を歩ませていた。
昨夜、信長様が命じたとおり、出立は陽も高く昼近くになっていた。
その理由は……信長様が私を褥から出してくれなかったから…だ。
(ううっ…お尻が痛い…っ…太ももにも力入らないし…)
「朱里、もっと腿を締めよ。落馬しても知らんぞ」
馬上でふらふらと姿勢が定まらない私を、信長様は隣で呆れたように覗き込んでくる。
「っ…もぅ…誰のせいだと思ってるんですかっ!い、痛いんですよっ、色々と…」
「………尻か?」
「!?!?」
「っ……最中は痛いとは言わなかったではないか…善い声で啼いておったくせに…」
「ひぃ〜、言わないで下さいっ…光秀さんにも聞こえちゃうじゃないですか!」
「聞かせてやればよい…くくっ…」
「ううぅ……」
私達から距離を取って少し後ろに下がっている光秀さんの方へ、チラッと目線をやると……
(っ…光秀さん、ニヤニヤしてるっ…これ、絶対聞こえてる…もぅ…恥ずかし過ぎる)
昨日の湯殿での情事の後、すっかり力が抜けてしまった私は、信長様に抱き上げられて寝所へと運ばれた。
そのまま眠ってしまいたいほど精魂尽き果てていた私とは正反対に、信長様の体力は底なしで……ようやく眠りにつけた頃には、早くも東の空が白みかけていたのだった。
(ほとんど眠っておられないはずなのに、信長様は相変わらず爽やかなお顔だな…)
キリリと引き締まった顔で真っ直ぐ前を見つめる男らしい姿を見ていると、自分ばかりが疲労感漂う情けない有り様に、何だか複雑な気持ちになってしまう。
「……何だ、その恨めしげな顔は? くくっ…もっとゆっくり朝寝でもしたかったのか?」
「もぅ…信長様は一体いつお休みなんですか?今朝だって…っ…朝からあんなに…」
今朝もまた、起きて早々に腕の中へと抱き込まれ、寝不足で気怠い身体に散々に愛を注がれたのだ。
信長様にこれ以上ないほどに愛されて、私は本当に幸せだと思う。
身体に残る鈍い痛みは信長様の愛の証
恥ずかしいことも…貴方になら全て曝け出せる。
貴方が望むなら…この身の全てを捧げたい。